入院メモ 第10話

この100円パソコン・・・
せっかく一階まで下りて100円入れたのに、持って来るデータ間違えた。





1:今なんどきだい?
 
眼球の怪我というのも、治療による長期入院というのも初めてです。9月の最後の晩に怪我をして10月を丸々病院で過ごし、今日から11月、最悪の結果から病院側の努力でここまで落ち着いたことを大変感謝しています。また、失明ではなく、視力を少しでも取り戻すために医師達が一所懸命知恵を絞ってくれていることも、そのためには長期の安静が必要なことも理解しています。

患者の我が儘かもしれない。突発的事故から1ヶ月たった、全く正確で無くとも良いから今後の治療プランとオプションを示してくれないか。通常一ヶ月以上の仕事を受けたら大まかな流れとアウトプットの内容、規模、そしてお見積り・・・大体こんなモンで宜しいか? くらいの話があって良いんじゃない?それが普通じゃないかと思うのだが、ないんだよね。

見えるようにしてくれ・・・とは言っていない。俺は諦めの良い人間だから。使った金を惜しんでも仕方ない、たまに尻ポケットに使ったと思い込んでた金が入っててラッキー!ってことはあるけど、要は目が見えないことを人のせいにはしない。だから、先生方、あんた達はどこまでこの眼を治したいの。一昨日はレンズを入れるかもって言ったね、昨日は角膜を移植したり・・・ってちらっと聞こえたぞ。

色々やって見えるようになるなら俺だって是非やりたい。しかし治療とはいえそれには費用と時間のロスが発生する(正確にはロスとは言えないがうまい言葉が見つからない、誰か教えて) 支払いが高額だったり、治療のための再入院や再手術で仕事を休まなければならないとか、家内を一人にするとか、その時見える景色を見逃すとかそういう理由でこれ以上の治療を諦める事はありうる。これからどうするか考えるのに、先ずは考えられる可能性を書き出してみるだろう。

俺が言っているのは、総治療費は一千万近くになると思う工事に工程表も、見積も無いわけはなかろう、金を出す保険組合は納得しているのか?工事を請け負う医師とクライアントである保険組合がよくても、地権者である俺に挨拶がない、すでに工事は始まっているのに・・・


玄関付近の立派なレストラン、新しいカメラは夜景も綺麗に撮れる。これで一万円台だからな・・・そりゃあシャープも苦労するわな




2:一千万の根拠
 
無いよ、そんなもん。
例えば先日退院した人が、手術一回、17日間の入院、社会保険、保険限度額適用して14〜5万払ったみたい。てことは一割負担としておよそ150万円、僕が2回手術して一ヶ月入院、手術時間がやや長かったとかでおよそ350万円、今後レンズ入れたり、角膜移植すればそれらの手術と、入院費がその都度かかって約一千万円というのが僕の大雑把な計算。

仮にこのサイズの会社で教授を含むこの人員が関わって何か一仕事したら、設備費含め相当のコストがかかるんじゃないかなと言うこと、この病院のブランドを考えると多くてその1・5倍、あるいは実はもっと安いとして、8割・・・そんなもんじゃないかと思っている。

さて、そう思ったら知りたくなってきた。誰か知ってる人がいたら教えてください。



3:0.04
 
昨日久し振りに二階の眼科外来でいくつか検査をした。この検査は嫌ではない、これをやると言うことは次のステップの判断材料を集めることだからだ。

右目の矯正視力0.04、それが良いか悪いか知らん、ただ測定不可能ではないと言うこと。2メートルほど前で10センチくらいの例のCが右か左か判別出来る程度。実は矯正のレンズが入っているがそれはあまり意味がない、僕の目はデジカメで言えば画像を検出するセンサーは生きている、ただレンズとフィルターがまっぷたつに割れた、レンズは捨てたがフィルタはセメダインでバチバチにくっつけた状態である。真ん中付近はぼやけてい見にくいが、まれに視界の隅がよく見えたりするのだ。もし角膜の透明度を上げることができればかなり回復しそうだし、角膜移植やレンズの挿入ができれば相当有効かもしれない。

もうひとつは、網膜写真。網膜の写真をたくさん撮ったのだが、普通は画像を見せてくれない。気になるので見せてもらったらなんと網膜の断層写真もとれる機械だそうだ、なんで正面から写して断面が撮れるのか、大まかで良いので仕組みを知りたい。誰でも良いから・・・


病院全景・・・すげ



 
4:患いし者

病院生活しているうちにも感情の波はありますな。一昨日はチョイとやさぐれておってですな、こうなったらタバコ吸ったろうかとか、もう黙って家に帰っちゃおうかな・・・アァーッめんどくせぇ・・・みたいな気持ちになったりもするわけです。しかし女房の顔が浮かんでタバコだけは手が出せない・・というか敷地内に売ってない、この寒空にパジャマ着て病院の外までタバコ買いに行く勇気もない、何より病院では吸わないと決めた自分のルールを破るのが悔しい。

タバコはダメだ、じゃあヤケ食いだ、ラーメン・良いねえ、カレー・うーんこれか、いっそステーキとか寿司とか・おぉ〜どれも美味そう!!・・・
しかし、午後3時半、全く腹が減ってない。朝七時、十二時、午後六時の規則正しい食事を続けた結果、僕の体は五時半まで空腹を感じないように完全に改造されており、美味そうとは思うのにどうしても食べたいとは思えないのだ。

結局二階のファミマで反逆の卵ロール¥105と抵抗のバガボンド34巻¥600を買って病室のベッドで食べました。


滅多に出ないんだよね。




 

5:ういぃぃぃ・・・・えっ
 
六時の晩飯が済んでしーしーしながら同室のオッサン達と馬鹿話でもするか、ゲームやって時間潰すか・・・なんてとき看護婦に呼ばれた「小坂さん○○先生の診察ありますから診察室へ」
「はい・・こんな時間にか」と思うが、なにか変化の予感がして嬉しいものだ。診察室には主治医が一人で何やらカチャカチャと準備していた。
「あ、小坂さん、抜糸しましょう」抜糸とは眼球を縫い合わせてるアレだ。
「え、今から? ここで? 麻酔とかは?」
若い医師は軽く「はい」「はい」「イイエ」と答えながら準備を続ける。
「はい小坂さん、目薬指しますよー、ちょとしみますよー」
「本当に、今、ここで抜糸しちゃうんですか?」
「はい、大丈夫ですよー、顎を台に乗せてー、ちょっとキョロキョロしないで」
「アッ、そんな急にっ、ヒエッ・・・」
歪んだ画面に黒いなにかが近づいてきて動く。

「ういぃぃぃぃぃ・・・・」
両手で何か掴もうとするが空をきる。

「ハイ、取りました」

「え?・・・・え、もうですか?」

「はい」

「はー、もうとれたんですか」
その間およそ二分、六針の中の一針が抜けた。
怖かっただけで全く痛みも感じなかった。
「まだ心配なので一度に全部は抜きませんが、様子を見ながら徐々に抜きましょう」

その夜は涙の(目やにのようでもある)量が明らかに少なかった。
また少し前進・・・何に? 出所・・もとい退院ですがな。