入院メモ 第7話

ただ好きな飛行機の写真を貼ってみただけだけど・・・
マニアと見ると面白白いんだこれが。


1:同室
 
同室の患者さんたちと話すことは無かったが、ふとしたきっかけで隣が同年齢だと分かり一気に仲良くなった。ディープ・パープル、ツェッペリンなどのキーワードで反応して話し出して、今では冗談も気楽に言える雰囲気で快適である。皆さんは網膜剥離の手術後の俯せ寝が大変らしく、姿勢を工夫したりして励まし合ったりしている。僕は状況が少し違うのでもう少し気楽に過ごしている、但し治るのはあちら、こっちは見えるようになるかどうか全く分からない。
 
一番若い患者が明日退院すると言う日、彼とは直接口をきいた事がなかったが、彼の言葉のはしに「僕なんかただのミリオタですから・・」の台詞を聞き逃さなかった。

なに、やすくん(仮名)ミリオタなの?マジでか?何系?戦史?飛行機?船?銃?
まあ銃をきっかけにして飛行機、戦車・・あ、でも船はあんまり詳しくないです。
良いの良いの、こっちは全く詳しく無いんだから。
知ってる範囲で良いから教えて。
ちなみに、自衛隊の装備って遅れてないの、例えば新型の戦車とか船はあるけど、銃とか個人で装備しているものが遅れていたり不足したりしていないの?

なんて話でスタートしてその日は就寝まで約五時間、制式銃の評価から新型戦車の戦術上の特色など、極めつけは僕の持っている軍用機ファイルを解説、トリビア付きでみたことです。

ミリオタ・・・めっちゃ面白い。翌朝も彼が退院するまで聞きまくってもりあがりました。


その他はいわゆるオッサンの馬鹿話、想像通りの病室風景と言っておきましょう。


2: 手術(二度目の)
 
24日夕方二度目の手術を受けた。今回は局所麻酔、前回膀胱に管入れて辛かったので全身麻酔は怖い。幸いである・・・と思ったら、局所麻酔って本当に目の回りだけなので、結構水の冷たさや引っ張られたり、音や振動を感じるし反対の眼は布越しにうっすらと見える。最初は緊張して例の「南無妙法蓮華経」を唱えていたが、途中から吉田拓郎になった。「いつか夜の雨が」「君のスピードで」「元気です」そして「ええかげんなやつじゃけん ほっといてくれんさい・・・」と歌ったところで手術が終了。麻酔をかけてくれた先生に「口ずさんでいましたね」と言われてやっと体の力を抜いた。あー怖かった。
 
執刀した先生はあくまでも冷静、落ち着いて一時の休止もなく手術を進めていく。人が集中して仕事をする様を間近で見ることが久しくなかった。ましてそれを自分の身体や将来をかけて体験するなどそうそうあるまい、局所麻酔は怖かったけど、すごく濃密な時間を体験して感動した。執刀医はもちろんだが、各々が自分の役割をきちんと果たしている治療スタッフと看護チームに感謝したい、ここもまた良い病院だと思う。
 
縫合した角膜の中に浮かんでいた白濁した水晶体や浮腫、出血して漂っている血塊等をすべて摘出。網膜に異常はなかったので、オイルもガスも充填していない、したがって辛い俯せ寝がない。今朝の診察では初めて眼圧も測定した。眼圧も安定しているし、外から覗いて網膜が見えるようになったらしい。
何よりも、今まで全く見えなかった目がかなりボンヤリだが見えるようになってきた。
最悪の事故の結果としては最良の経過をたどっていると言える。


 
 
3:名言
 
自分がやっていないのでうまく言えないのだが、網膜剥離の術後の俯せ寝と言うのは辛いものらしい。
眼球に入れたガスが網膜を眼底に押し付けてそれが徐々に体液に入れ替わるのに二週間、その間、ガスが上になるようにじっとしたを向いていなければならない。昼も夜もだ。それが網膜剥離のもっとも重要な治療なのである。

病室の奥のスーさんは普段から耳が遠く隻腕でみんなに大事にされている。すごく優しい方で普段怒ることはないんだけど今日は違った。スーさんは俯せ寝が辛くてたまらないのだ。本人なりに精一杯安静にいているのにいつも看護士に
「ほら、スーさん下向き下向き、頑張って」
「ダメよ、スーさんそれじゃ横向き、下向きじゃないと治らないわよ」
「スーさん、頑張って下向きにしないと再手術になっちゃうのよ」
看護師だって一生懸命なのだが、今日のスーさんは疲れていた。
三週間を越える入院、家族になかなか会えない寂しさ、そして俯せ寝の辛さ・・・


「下向き下向きって、そんなもんで治るんならこんな苦労しとらんわ」

スーさん、その通りなんだが、その下向きだけがあなたを解放するんだ、頑張れ!

今朝のスーさん・・・

「今な、診察室でな、先生に向かってそんな下向きに寝るぐらいで治るならこんな苦労しとらんわって言うてる人がおってな、あんなこと言うちゃいかんなー、ありゃいかん」

と言って、隣の人にあんたも昨日看護師に同じこと言ってたよと突っ込まれております。
平和ですなぁ。
  
  


4:退院
 
・・・したい。ミリオタの安くん、同年のカトさん、隊長のサカモッさん、どんどん退院していく。僕はとうとう五週目に入った。彼らは苦しいうつ伏せがあったもののガスが球状になって日々小さくなり、ある日見えなくなったら退院である。僕には目安になるものがない、どういう状態になったら退院できるのかがわからん。毎日の診察で、毎日同じように「順調ですよ、安静にしてもう少し様子を見ましょうね」と言われても、安心していられなくなってきた

今日の診察で聞いてみた。先生は言いにくそうだったが、「このまま順調であれば」10日くらいのうちに退院になるかもしれない・・・来週検査してとかなんとかいってた気もするが、僕の頭の中には「10日以内に退院」とインプットされた。やった!やった!退院だ!

今後10日はメシウマだ。


24日の手術後の一番病人らしい写真です。


 
5:病棟
 
眼科病棟は眼科の患者がメインだから数日から数週間で退院していく、病棟でお亡くなりになることはまず、少ないだろう。それでも入院も長くなると、病気で入院してくる人の色んな人生を垣間見ることになってしまう。ブログに書けることなど、たかがしれているが・・・
 
スーさんは僕がいるうちに退院してもらいたい。

僕自身うつぶせをしていないので今まであまり声をかけなかった。カトさんや隊長がスーさんを応援していたが、彼らが退院してしまった今は僕が頑張るしかないような気がしてきた。この部屋にいたみんなが気にしているスーさん、出来ることなら僕の口からスーさんの退院を報告したいものだ。


注:登場された同室の方のお名前は適当に変えてあります。